経済産業省 AI事業者ガイドライン 第1.01版 解説

本記事は 生成AIセキュリティ by ナレコム Advent Calendar 2024 の7日目の記事です。

本Advent Calendarは、国内で唯一の技術領域 責任あるAI  MVP受賞者 を中心に、生成AIを含めたAIやデータを企業が利活用するときに気をつけるセキュリティやガバナンスを中心に紹介します。

AI事業者ガイドライン とは

AI技術の進展とその社会的影響についての理解を深めることを目的としています。特に、生成AIの登場によってもたらされる新たな機会とリスクに焦点を当てています。企業や個人がAIを効果的に活用し、同時にそのリスクを適切に管理するための指針を提供することを目指しています。

主な対象は、AI技術をビジネスに取り入れようとする企業の経営者や担当者、またはAIの利用に関心を持つ一般の方々です。さらに、教育機関や政策立案者にとっても、AIの社会的影響を理解し、適切な対策を講じるための重要な情報源となることを意図しています。

AI事業者ガイドライン(第1.0版)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20240419_report.html

AI事業者ガイドライン 「はじめに」解説

この「はじめに」では、AI(人工知能)技術の進展が私たちの生活やビジネスにどのような影響を与えているかについて説明しています。特に、最近の生成AIの登場がもたらす新しい機会とリスクに焦点を当てています。

  1. AIの進化とその影響:
    AI技術は急速に進化しており、私たちの生活や仕事の仕方を大きく変えています。特に、対話型の生成AIは、情報の取得やコミュニケーションの方法を革新しています。

  2. AIの民主化:
    AIの利用が広がることで、これまで専門的な知識が必要だった技術が一般の人々にも利用可能になっています。これを「AIの民主化」と呼び、誰もがAIを活用できる時代が到来しているを示しています。

  3. ビジネスモデルの再構築:
    企業はAIを単なるツールとして使うだけでなく、ビジネスモデルそのものを再考し、新しい価値を創造する必要があります。AIを活用することで、効率化や新たなサービスの提供が可能になります。

  4. 社会的リスクの認識:
    AIの利用が進む一方で、新たな社会的リスクも生じています。特に、生成AIによる知的財産権の侵害や偽情報の生成など、これまでにはなかった問題が浮上しています。これらのリスクに対処するための取り組みが求められています。

  5. 人間の尊厳の重要性:
    AIを利用する際には、人間の尊厳を尊重することが重要です。AIはあくまで人間の道具であり、人間がその利用方法を決定するべきです。

  6. 教育とリテラシーの向上:
    AIの利点を最大限に活かすためには、教育やリテラシーの向上が不可欠です。特に、世代間のギャップを埋めるための教育機会を提供し、AIに対する理解を深めることが重要です。

  7. 国際的な視点:
    AI技術の発展は国際的な動向にも影響を受けるため、企業や個人はその動向に注意を払う必要があります。特に、高度なAIシステムについては、安全性評価の枠組みを検討することが求められています。

第1部 「AIとは」 解説

AIに関する基本的な用語の定義が中心に記載されています。

  1. AIの定義:
    AI(人工知能)は、コンピュータが人間のように学習し、推論し、問題を解決する能力を持つ技術を指します。これには、機械学習や深層学習などの手法が含まれます。

  2. 生成AI:
    生成AIは、テキスト、画像、音声などを生成する能力を持つAIの一種です。これにより、ユーザーは新しいコンテンツを自動的に作成することができます。

  3. AIガバナンス:
    AIガバナンスは、AIの利用によって生じるリスクを管理し、同時にその便益を最大化するための枠組みを指します。これは、技術的、組織的、社会的なシステムを設計し運用することを含みます。

  4. 人間中心のアプローチ:
    AIの利用においては、人間の尊厳や自律を尊重することが重要です。AIはあくまで人間の道具であり、人間がその利用方法を決定するべきです。

  5. 公平性とプライバシー:
    AIシステムは、公平性を保ち、バイアスを排除する必要があります。また、個人情報の保護も重要であり、プライバシーを侵害しないように配慮する必要があります。

  6. 安全性:
    AIの利用に際しては、人間の生命や財産を守るための安全対策が求められます。これには、適切なデータの学習やリスク管理が含まれます。

第1部は、AIを利用するすべての事業者がこれらの用語や概念を理解することが求められています

第2部 「AI により⽬指すべき社会及び各主体が取り組む事項」 解説

A.基本理念

基本理念は、AIの発展に伴っても変わることなく、社会が目指すべき方向性を示しています。AIを公共財として活用し、社会の質的変化や真のイノベーションを通じて、持続可能な未来を築くことを目指しています。

  1. 人間の尊厳が尊重される社会(Dignity):
    AIの利用によって効率性や利便性を追求するあまり、人間がAIに過度に依存したり、AIによって人間の行動がコントロールされるような社会を目指すのではなく、人間がAIを道具として使いこなすことが重要です。これにより、人間の能力を最大限に発揮し、創造性を高め、やりがいのある仕事に従事できる社会を構築する必要があります。つまり、物質的にも精神的にも豊かな生活を送ることができる環境を整えることが求められています。

  2. 多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity and Inclusion):
    様々な背景や価値観を持つ人々が、それぞれの幸せを追求できる社会を目指します。AIはこの理想に近づくための強力なツールとなり得ます。多様性を尊重し、柔軟に包摂することで、新たな価値を創造する社会を実現することが期待されています。

  3. 持続可能な社会(Sustainability):
    AIを活用してビジネスやソリューションを生み出し、社会の格差を解消し、地球規模の環境問題や気候変動に対応できる持続可能な社会を構築する必要があります。科学技術立国として、日本はその技術的蓄積をAIによって強化し、持続可能な社会の実現に貢献する責任があります。

B. 原則

AIの利用がもたらす便益を最大化しつつ、リスクを最小限に抑えるための重要な指針となります。各主体はこれらの原則を念頭に置きながら、AIシステムやサービスの開発・提供・利用を進めることが期待されています。

  1. 人間中心のアプローチ:
    AIシステムやサービスの開発・提供・利用においては、人間の尊厳を守ることが最優先されるべきです。AIはあくまで人間の道具であり、人間がその利用方法を決定することが重要です。

  2. 安全性の確保:
    AIの利用に伴うリスクを低減するために、安全性を確保することが求められます。これには、AIシステムの設計や運用において、事故や誤動作を防ぐための対策が含まれます。

  3. 公平性の確保:
    AIシステムは、公平性を保つことが重要です。特定の人々やグループに対して不公平な影響を与えないように、バイアスを排除する努力が必要です。

  4. プライバシーの保護:
    個人情報の不適切な利用を防ぐために、プライバシーを保護することが求められます。AIシステムが扱うデータについては、適切な管理と利用が必要です。

  5. セキュリティの確保:
    AIシステムの脆弱性や外部からの攻撃に対するセキュリティを確保することが重要です。これにより、システムの可用性を維持し、信頼性を高めることができます。

  6. 透明性の向上:
    AIシステムの運用においては、透明性を高めることが求められます。これには、システムの動作や決定プロセスについての情報を適切に提供し、ステークホルダーに対する説明責任を果たすことが含まれます。

  7. アカウンタビリティの確保:
    AIシステムの開発者や提供者は、そのシステムがもたらす影響について責任を持つべきです。問題が発生した場合には、適切に対応し、必要な情報を提供することが求められます。

C. 共通の指針

AIの利用がもたらす便益を最大化し、リスクを最小限に抑えるための重要な指針となります。各主体はこれらの指針を念頭に置きながら、AIシステムやサービスの開発・提供・利用を進めることが期待されています。

  1. 人間中心のアプローチ:
    各主体は、AIシステムやサービスの開発・提供・利用において、人間の尊厳や個人の自律を重視する必要があります。AIは人間の道具であり、人間がその利用方法を決定することが重要です。

  2. 法令の遵守:
    AIに関連する法律や規制(例えば、個人情報保護法や知的財産権関連法令)を遵守することが求められます。また、国際的な指針や基準についても留意することが重要です。

  3. 特性や社会的文脈の考慮:
    各主体は、開発・提供・利用するAIシステムやサービスの特性、用途、目的、社会的文脈を考慮しながら、自主的に取り組むことが求められます。これにより、AIの利用が社会に適切に適応することが期待されます。

  4. バリューチェーン全体での連携:
    各主体は、AIの品質向上やリスク管理のために、バリューチェーン全体で連携して取り組むことが重要です。これにより、AIのリスクを最低限に抑えつつ、最大限の便益を享受することが期待されます。

  5. 教育とリテラシーの確保:
    AIの恩恵が全ての人々に行き渡るよう、教育やリテラシーの確保に努めることが求められます。これにより、社会の分断を回避し、全ての人がAIの利点を享受できるようにすることが期待されています。

第3部 「AI 開発者に関する事項」 解説

AI開発者がAIシステムを開発する際に考慮すべきリスクや責任、そして社会への貢献について詳しく述べられています。AI開発者は、これらのポイントを踏まえた上で、倫理的かつ責任ある開発を行うことが求められています。AI開発者は、AIモデルを直接設計し、変更を加えることができるため、その影響力は非常に大きいです。

  1. 影響の検討:
    AI開発者は、自身が開発するAIが提供・利用された際に、どのような影響を与えるかを事前に検討し、対応策を講じることが重要です。これにより、社会に与える影響を最小限に抑えることができます。

  2. リスクの管理:
    開発の現場では、正確性を重視するあまりプライバシーや公平性が損なわれることがあります。また、プライバシーを過度に重視することで透明性が失われる場合もあります。こうしたリスクの衝突が生じた際には、経営リスクや社会的影響を考慮し、適切に判断・修正することが求められます。

  3. 説明責任の確保:
    AIシステムにおいて予期せぬ事故が発生した場合、AIのバリューチェーンに関与する者は説明を求められる可能性があります。そのため、AI開発者はどのような関与を行ったかを記録し、合理的な説明ができるようにしておくことが重要です。

  4. データの適切な取り扱い:
    AI開発者は、学習に使用するデータを適切に収集し、プライバシーや知的財産権に留意する必要があります。データの取り扱いは、AIのライフサイクル全体を通じて確保されるべきです。

  5. イノベーションの促進:
    AI開発者は、AIの品質や信頼性を向上させるための研究開発を行い、持続的な経済成長や社会課題の解決に貢献することが期待されています。また、国際的な議論やコミュニティへの参加を通じて、AIのイノベーションを推進することも重要です。

第4部 「AI 提供者に関する事項」 解説

AI提供者がAIシステムを提供する際に考慮すべきリスクや責任、透明性の確保について詳しく述べられています。AI提供者は、これらのポイントを踏まえた上で、倫理的かつ責任あるサービスを提供することが求められています。AI提供者は、AI開発者が開発したシステムに付加価値を加え、利用者に提供する役割を担っています。

  1. 役割と責任:
    AI提供者は、AIシステムを社会に普及させ、経済成長に寄与する一方で、その影響の大きさから適正な利用を前提としたサービスを提供することが求められます。提供者は、AIシステムが適切に機能するように管理し、利用者に対してサポートを行う責任があります。

  2. リスク管理:
    AI提供者は、AIシステムの実装時に人間の生命や財産、環境に配慮したリスク対策を講じる必要があります。これには、AIの出力結果が特定の個人や集団に対する評価に利用される場合、事前に通知し、適切な手続きを遵守することが含まれます。

  3. 情報の透明性:
    提供者は、AIシステムの動作状況や不具合の原因、対応状況などの情報を利用者に提供し、透明性を確保することが重要です。また、AIシステムの更新内容やその理由についても説明する必要があります。

  4. データの取り扱い:
    AI提供者は、学習に使用するデータの収集ポリシーや学習方法を明確にし、プライバシー保護やセキュリティ確保に努める必要があります。特に、個人情報の取り扱いには細心の注意を払うことが求められます。

  5. サービス規約の整備:
    AI提供者は、利用者向けにサービス規約やプライバシーポリシーを明示し、利用者がそれを遵守するよう促すことが重要です。これにより、利用者がAIシステムを適正に利用できるようにサポートします。

  6. インシデントの共有:
    提供者は、インシデント事例や関連情報を合理的な範囲で共有し、より安全で信頼できるAIシステム・サービスの提供を目指すことが期待されています。

第5部 「AI 利⽤者に関する事項」 解説

AI利用者がAIシステムを適切に利用するための指針や注意点が詳しく述べられています。AI利用者は、これらのポイントを踏まえた上で、倫理的かつ責任ある利用を行うことが求められています。AI利用者は、AI提供者から提供されたシステムを適切に利用し、業務の効率化や創造性の向上を図る役割を担っています。

  1. 安全を考慮した適正利用:
    AI利用者は、AI提供者が定めた利用上の留意点を遵守し、提供者が設計した範囲内でAIシステムを利用することが求められます。また、データの正確性や最新性を確認し、AIの出力結果についても精度やリスクを理解した上で利用する必要があります。

  2. 公平性の確保:
    AI利用者は、入力データやプロンプトに含まれるバイアスに注意を払い、公平性が担保されたデータを使用することが重要です。これにより、AIの出力結果が特定の個人や集団に対して不公平な影響を与えないように配慮します。

  3. プライバシーの保護:
    AI利用者は、AIシステムに個人情報を不適切に入力しないよう注意を払い、プライバシー侵害を防ぐための対策を講じる必要があります。AI提供者からの情報を基に、プライバシー保護に関する理解を深めることが求められます。

  4. セキュリティ対策の実施:
    AI利用者は、AI提供者が示すセキュリティ上の留意点を遵守し、システムの安全性を確保するための対策を実施することが重要です。

  5. 説明責任の確保:
    AI利用者は、社会やステークホルダーからAIの能力や出力結果について説明を求められた場合、AI提供者のサポートを得てその要望に応えることが期待されます。これにより、AIの利用に関する理解を深め、より効果的な活用が可能となります。

まとめ

AI技術の進展に伴う社会的影響を考慮し、AIの開発、提供、利用に関する基本理念や原則を示しています。特に、人間の尊厳、多様性、持続可能性を重視し、AIの利用がもたらす機会とリスクを理解することが重要です。開発者、提供者、利用者はそれぞれの役割に応じて倫理的かつ責任ある行動を取ることが求められ、協力し合うことでリスクを管理しながらAIの便益を最大化することが期待されています。これにより、より良い社会の実現に向けた取り組みが進むことを目指しています。

この記事を書いた人

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