データ分類と生成AI:PII / 機密 / 知財の扱い方

■ はじめに:AI活用の成否は「データ分類」で決まる

生成AIの導入が加速する一方、次のような困りごとが増えています。

「この情報、AIに入れていいの?」
「要約だけなら大丈夫?」
「コードはどこまで貼っていいの?」

実はこれらの悩みの多くは、 データ分類(PII / 機密 / 知財)を明確にしていないことが原因 です。

Day9 では、既存の情報管理ルールを“生成AI前提” にアップデートするための考え方を整理します。


1. なぜデータ分類がAI時代に必須なのか

AIは、入力した情報を次のような点でリスクにさらします。

  • 外部サービスに渡る(API事業者・クラウドログ)
  • AIの出力を通じて漏えいする可能性(ハルシネーションによる捏造も含む)
  • RAG・ファイルアップロードなど経路が増える

つまり、 “どのデータを AI に渡せるのか” を分類しておかないと、利用判断が個人任せになり事故が起きる。

この問題を解消するために、企業は PII / 機密 / 知財 の3分類でルールを整備するのが最も効果的です。


2. 個人情報(PII)の扱い:原則“外部AIに入力しない”

PII(Personally Identifiable Information)は、AI利用において 最も厳格に扱うべき情報 です。

≪NG例≫

  • 氏名
  • メールアドレス
  • 住所・電話番号
  • 社員番号
  • 顧客ID
  • 家族情報・健康情報

◆ 原則

外部LLMへの入力は禁止。

法律面(個人情報保護法)だけでなく、一度でも漏れた場合の説明責任・ブランド毀損が非常に大きいためです。

◆ やむを得ず使う場合の例外

  • 匿名化(固有名を一般名詞へ)
  • トークン化( などに置き換え)
  • 企業契約版(ログ保持なし・学習利用なし)に限定

ポイント: 匿名化しても、“特定の組み合わせで再識別可能” な情報は依然としてPII扱いです。


3. 機密情報(Confidential)の扱い:公開前情報は絶対に外に出さない

営業秘密、未公開資料、財務情報、プロジェクト情報—— これらは 企業価値に直結する領域 です。

以下はすべて AIへの直接入力禁止

≪NG例≫

  • 契約書全文
  • 財務数値(未公開)
  • 研究開発資料
  • 顧客との未公開やりとり
  • 価格戦略・事業計画
  • 社内の機密区分A/Bに該当するドキュメント

◆ やむを得ずAIを使いたい場合

次の“安全策”を組み合わせる形になります。

  • ホワイトリスト方式で許可されたAIのみ使用
  • 情報を部分抽出して要約
  • 固有名詞、数値を抽象化
  • RAG環境など社内管理下のAIを利用する

外部LLMに丸ごと貼る習慣は最も危険 なので早期に禁止した方がよい領域です。


4. 知的財産(IP):コード・設計図は AI との相性が一番難しい

知財は「外に出てはいけない」「AI成果物が自社の権利を侵害していないか」 双方向のリスク を持つのが特徴です。


◆ 入力時のリスク(流出・学習・再提示)

  • コードや設計図がAI事業者に保存される可能性
  • 特定の記述パターンが他社への回答として再利用される可能性
  • プラットフォームログに残る可能性

特に GitHub Copilot の初期事例のように、 “外部コードが不意に再提示される” ケースが議論されてきました。


◆ 出力時のリスク(著作権侵害・第三者権利)

  • AIが生成したコードが他者著作物に類似している
  • AIが架空ライブラリ名を提示 → 攻撃者が悪用してマルウェア化
  • ハルシネーションにより誤った法的記述が出てくる

AIが生成したもの=そのまま安全ではない。 この誤解がIP領域では特に危険です。


◆ 安全に扱うためのルール例

  • 重要コードの全文入力は禁止
  • 設計図は“論点部分”だけ抜粋
  • 生成物を社外に渡す場合は 人間のレビュー必須
  • RAGや社内デプロイされたモデルを優先利用
  • “第三者権利を侵害していないこと” の確認を追加

IP領域は法務と情報システムの連携が不可欠です。


5. まとめ:分類があるから、AI活用が進む

多くの企業では、 **「AIを使ってはいけない」**ではなく 「分類に応じて、使える・使えないを判断する」 という形に切り替えることで、 “安全性と活用のバランス” を保っています。


● 本日のまとめ

  • データは PII / 機密 / 知財 の3つに分類すると扱いが決まる
  • PIIは原則外部AIに禁止、例外運用は匿名化+契約版
  • 機密情報は“公開前かどうか”が判断軸
  • 知財は流出リスク+生成物リスクの両面に注意
  • 分類に応じた社内ルールが、安全なAI活用の前提

分類ルールを整えることで、
「AIを使えないから困る」から「安心して使える環境へ」 一歩進めるはずです。


本記事は、ナレッジコミュニケーションによる生成AIセキュリティ支援の実務知見をもとに執筆しています。
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