データ分析の世界では、巨大なデータセットを扱うことが日常的になっています。しかし、膨大な数の特徴量を持つデータセットから、本当に役立つ情報を見つけ出すのは容易なことではありません。そこで、今回は6000列近い特徴量を持つ巨大なデータセットを対象に、ChatGPTの力を借りて、効果的なデータ分析を行ってみました。
本記事では、ChatGPTがわたしたちの分析をステップ・バイ・ステップでサポートし、その過程で得られた結果をご紹介します。これにより、どのようにしてAIの力を活用し、複雑で巨大なデータセットから有益な情報を引き出すことができるのか、具体的な手法と実践例をお伝えすることができます。
はじめに
本記事では、Kaggleコンペティション「Merck Molecular Activity Challenge」において、大規模なデータセットを対象に、ChatGPTを活用してデータ分析を行う方法について解説します。特に、分子の生物学的活性予測の重要性や応用分野に焦点を当て、可視化を駆使した特徴量の探索について詳しく説明していきます。
Kaggleコンペティションの概要
このコンペティションでは、分子の生物学的活性を予測するモデルの構築が目的となっています。データセットは、分子構造を表す特徴量(ディスクリプタ)を含んでおり、これらの特徴量をもとに、分子の生物学的活性を予測することが求められています。参加者は、与えられたデータを利用して、予測モデルを構築し、その精度を競います。
分子の生物学的活性予測の重要性と応用分野
「生物学的活性」とは、化合物が生物学的なシステム(細胞や生物全体)において、特定の効果や反応を引き起こす能力のことを指します。例えば、薬物が受容体と結合して生物学的な効果を示す場合、その薬物の生物学的活性が高いと言われます。生物学的活性予測は、新薬開発や環境リスク評価など、幅広い応用分野に重要な意義を持っています。
例えば、薬物開発の初期段階では、多くの化合物の中から治療効果が期待できるものを見つけることが重要です。分子の生物学的活性予測を行うことで、実際に実験を行う前に、コンピュータ上で様々な化合物の効果を評価することができます。これにより、実験の回数を減らし、研究開発のコストや時間を削減できます。
生物学的活性を正確に予測することで、効率的な新薬開発が可能となります。また、環境中に放出される化学物質の生物への影響を事前に評価することで、環境リスクを適切に管理することができます。このように、分子の生物学的活性予測は、私たちの生活や健康に大きな影響を与える分野で重要な役割を果たしています。
分子の生物学的活性予測は、機械学習や人工知能技術を活用して、分子の構造情報から生物学的活性を予測するモデルを構築します。これにより、既存の知識やデータをもとに、新しい化合物や疾患に対する治療法の発見が促進されることが期待されます。
データについて
KaggleのMerck Molecular Activity Challengeでは、ACT1_competition_training.csvからACT15_competition_training.csvまでの15個のファイルが提供されています。これらのファイルは、それぞれ異なる生物学的活性を持つ化合物のデータセットを表しており、各ファイルは異なる予測タスクに対応しています。
これらのファイルには、次のようなカラムが含まれています。
- MOLECULE_CHEMBL_ID: 化合物のChEMBL ID(一意の識別子)です。ChEMBLは、化合物や生物学的アッセイデータの大規模なデータベースです。
- SMILES: 化合物の構造を表現するSimplified Molecular Input Line Entry System(SMILES)表記です。SMILESは、分子の構造情報を短い文字列で表現するための記法です。
- 分子量や水素結合供与体数(HBD)、水素結合受容体数(HBA)、LogPなどの化学的特性を表すカラムが含まれています。これらの特性は、化合物の生物学的活性に関連することが知られており、予測モデルの特徴量として利用できます。
- “Act”というプレフィックスが付いたカラムが複数含まれています。これらのカラムは、生物学的活性の測定値を表しており、予測タスクの目的変数(ターゲット)となります。これらの値は、実験によって得られたもので、モデルが予測すべき対象です。
各ファイル(ACT1_competition_training.csvからACT15_competition_training.csv)には、これらのカラムが含まれており、予測タスクごとに異なる生物学的活性のデータが提供されています。参加者は、これらのデータを利用して、機械学習モデルを構築し、分子の生物学的活性を予測することが求められます。
このコンペティションでは、それぞれのファイル(ACT1_competition_training.csvからACT15_competition_training.csv)に対応する個別の予測モデルを構築することが求められます。各ファイルは異なる生物学的活性に関するデータを含んでおり、それぞれの活性に対して別々の予測モデルを作成する必要があります。
今回の記事では ACT2_competition_training.csv に対して実施しました。
データの理解と前処理
本コンペティションで扱うデータセットは、6000列以上の特徴量を持つ大規模なものです。そのため、データを理解し、前処理を行う際には、効率的なアプローチが求められます。本章では、データの理解と前処理において、ChatGPTを活用したステップ・バイ・ステップのアプローチについて解説します。
データの理解
まずはじめに、データの全体像を把握することが重要です。本データセットでは、各行が化合物を表し、列には分子の生物学的活性(Act)と、その特徴量(ディスクリプタ)が含まれています。データの特徴を理解するために、欠損値の確認や各特徴量の分布を調べることが必要です。ChatGPTは、欠損値の有無や分布の確認に関するコードを提供し、データの理解をサポートします。
データを読み込み、head、shapeでデータの把握、isnullを使って欠損有無の把握を行います。今回のデータには欠損はなく、8716行×5879列のデータであることがわかりました。
前処理と特徴量選択
次に、前処理を行い、データセットをモデルに適した形に整えます。前処理には、欠損値の処理やデータの正規化、特徴量選択などが含まれます。特に、本データセットのように特徴量が多い場合、特徴量選択は非常に重要なステップとなります。
ChatGPTは、相関分析や主成分分析(PCA)、t-SNE、UMAPなどの手法を用いて、特徴量の相互関係を可視化し、重要な特徴量を絞り込む方法を提案します。これにより、分析対象となる特徴量が減り、データの扱いやすさが向上します。
上図は「主成分分析(PCA)」を行ったグラフです。このグラフの特徴をChatGPTに対して投げます。
図を見ると以下の特徴があります。ここから何がわかりますか?
多くの点はy軸 -20から20 x軸 -50から50ぐらい
左側ほど青い(ACTが4付近)が多くて、右上よりに黄色(ACTが10付近)が多い
点群は横長の楕円に近い分布
すると、ChatGPTから以下のような回答が来ました。
ChatGPTからの回答
図からの観察に基づいて、以下の点について考察できます。
- データの分布: 多くのデータポイントが y軸 -20から20、x軸 -50から50 の範囲に分布していることから、この領域がデータセットの主要な特徴を表している可能性があります。この範囲を詳細に調べることで、より関連性の高い特徴を特定できるかもしれません。
- 生物学的活性の傾向: 左側に青い点(ACTが4付近)が多く、右上方向に黄色い点(ACTが10付近)が多いことから、PCAの第1成分と第2成分に沿って生物学的活性に一定の傾向があることが示唆されます。これは、選択した特徴が生物学的活性の予測に役立つ可能性があることを意味しています。
- クラスタの形状: 点群が左向きの三角形に近い分布を示していることから、データセット内の化合物は、選択した特徴に基づいて、特定のパターンや構造を持っている可能性があります。この情報は、機械学習モデルの構築や特徴選択の際に役立つかもしれません。
このようにChatGPTにデータが渡せなくても、文字情報で渡すことでヒントや進め方を教えてくれます。
相関分析を図示したものです。このグラフから具体的な値を取得することはできませんが、多くの場所に赤い点(相関関係がある)があることが確認できます。
次に予測対象(Act)と相関係数が高い上位のデータから可視化させます。これにより各カラムの値と予測対象に関係があるか確認することが出来ます。
一覧から特に気になるものの詳細を取得することも可能です。上のグラフでは点群が重なりすぎて正確に把握することが難しいですが、下図の様にすることで把握することが出来ます。
このように非常に大きなデータであっても、ChatGPTと協調することでデータ分析を行うことが出来ます。
まとめと今後の展望
ChatGPTによるデータ分析の効果と利点
本記事では、6000列近い大規模なデータセットを用いて、ChatGPTを活用してデータ分析を行いました。ChatGPTのステップ・バイ・ステップのサポートにより、効率的かつ迅速にデータセットの特徴を理解し、可視化することができました。また、複雑なデータセットでの分析手法を選択や、データ分析結果の解釈において、専門的な知識が必要な場面でも、ChatGPTが適切な指示や解説を提供してくれました。
今後のデータ分析とモデリングの方向性
これまでの分析により、データセットの様々な特徴が明らかになりました。今後は、これらの特徴を利用して、生物学的活性を予測するモデルを構築していくことが求められます。機械学習アルゴリズムを適用し、特徴量選択やハイパーパラメータチューニングを行うことで、より高い性能のモデルを作成することが可能です。また、ディープラーニングを用いたアプローチや、転移学習などの先進的な手法を適用することで、さらなる精度向上が期待できます。最終的には、効果的な薬剤開発や、生物学的活性の予測に役立つモデルを実現することが目指されます。