はじめに
2026年6月15日~18日に、サンフランシスコ・バーチャルにて開催されるDatabricks主催の、年間最大規模のカンファレンスイベント、「Databricks Data+AI Summit 2026」(DAIS)が開催中です。
本記事はDAIS2026 Keynote Day 1で発表された、アップデート情報のまとめ記事です。
本記事はDatabricks公式発表を元にした非公式の日本語要約であり、すべての著作権・知的財産権はDatabricksに帰属します。
忙しい方用
- Databricksの主張は「AIの知能はもう十分。足りないのは会社の文脈(Enterprise Context)」
- そのために、データ統合、セキュリティ、コスト管理、オープン性をまとめて支える新機能群が発表された
- 中核は Genieファミリー。社内知識を“地図化”し、自然言語で正確に使えるAIを実現する方向性が示された
0. Keynote 1日目に共通する大テーマ
Databricks CEO の Ali Ghodsi 氏は、冒頭で次の質問を投げかけました。
「AGI(汎用人工知能)は、もう来ていると思う人は?」
会場で手が挙がったのは、わずか5%ほど。
しかし、Ali氏の答えは 「YES」 でした。
最先端のAIは、専門家でも解けない数学・物理の難問を解き、最難関ベンチマークでも高い正答率を示している。
つまり、モデルの“賢さ”はすでに十分高い。
ではなぜ、私たちの会社ではAIがいまひとつ役に立たないのか?
Databricksの答えは明快でした。
AIに必要なのは知能ではなく、企業の文脈(Enterprise Context)である
どれだけ優秀な新入社員でも、会社のことを知らなければ仕事はできません。
同じように、今のAIは「賢い頭脳はあるが、会社の地図を持っていない状態」だというわけです。
第1章:バラバラのデータを「ひとつの基盤」に集約する
AI活用の出発点は、やはりデータです。
社内に散らばったデータを集め、AIがすぐ使える状態(AI Ready)に整えるための新機能が多数発表されました。
1-1. 集める:進化した Lakeflow
データ取り込みの入口となる Lakeflow は、Salesforce、Workday、Oracle など 100以上のコネクタを備えるまでに成長しました。
さらに、アプリからAPI経由で直接データを送り込める 「Zero Bus」 がGA(一般提供開始)となり、
毎秒12GB規模のリアルタイムインジェストが可能になっています。
特に印象的だったのは、
データパイプラインの 60%が、わずか3か月でAI(Genie Code)によって自動生成された
という実績です。
1-2. 形式を気にしなくていい世界へ:Delta と Iceberg の完全統合
長年、データ形式を Delta Lake にするか Apache Iceberg にするかは、データエンジニアの悩みの種でした。
Tabular の CEO、Ryan Blue 氏はステージでこう語りました。
「将来的に、ユーザーが Iceberg を気にする必要はなくなります」
Databricksは、2026年後半(目標はQ4)までに Delta と Iceberg を完全統合し、ディスク上でも同じ形にすることを目指しています。
1-3. 爆速で分析する:新エンジン Reyden と Lakehouse RT
Databricksは「最高のデータウェアハウスは Lakehouse である」という思想のもと、
この1年で 110以上のDWH機能を追加してきました。
そのハイライトが、新エンジン Reyden を搭載した Lakehouse RT(Real-Time) です。
- データを別システムにコピーせず
- データレイク上で直接
- ミリ秒級の分析を実現
デモでは、1,000体のAIエージェントが同時に毎秒約6,000クエリを投げても、わずか37ミリ秒の遅延でさばくという圧倒的な性能が示されました。
1-4. アプリを支える超高速DB:Lakebase と、脱CDCを掲げる LTAP
分析だけでなく、アプリケーション向けの高速DBとして、Postgres互換の Lakebase も登場しました。
主な特徴は以下の通りです。
- Scale-to-Zero
使わない時間帯は計算費をゼロにできる - ブランチング機能
巨大なDBを わずか500ミリ秒で丸ごとクローンできる - AIエージェントとの相性がよい
試行錯誤→失敗時の即ロールバック、という運用に向く
さらに、運用DBと分析DBをストレージ層で統合する新概念 LTAP も発表されました。
これにより、従来の脆いデータコピー技術(CDC)から脱却し、
本番環境への影響ゼロ・データ遅延ゼロでの分析が可能になるとされています。
第2章:安全に、ムダなくAIをコントロールする
データという「材料」が揃っても、
コストやセキュリティの管理ができなければ、現場での導入は進みません。
2-1. 統一管理の司令塔:Unity Catalog
Unity Catalog は、どのデータを、誰が、いつ、何のために使ったかを一元管理するための仕組みです。
対象はテーブルだけではありません。
- AIモデル
- AIエージェント
など、あらゆる資産のアクセス制御やコスト管理を 無料で一括管理できます。
しかも、これは オープンソース として提供されています。
2-2. AI時代の関所:Unity AI Gateway
社内に複数のAIモデルやエージェントが乱立すると、
コストが不透明になり、セキュリティリスクも高まります。
そこで登場したのが Unity AI Gateway です。
これは、社内のAI通信が必ず通る 「高速道路の料金所」 のような存在です。
できることは、例えば以下の通りです。
- AIの支出を可視化する
- 予算超過時に自動でブレーキをかける
- OpenAI / Anthropic / Gemini など、モデルの差し替えを柔軟にする
第3章:AIに「会社の知識」を渡す ── Genieファミリー
ここからが、この講演のメインです。
冒頭の「会社の文脈をAIに理解させる」ための具体策が語られました。
3-1. なぜ今のAIは「遅くて不正確」なのか?
多くのAIは、質問されるたびにゼロから社内文書を探し回ります。
これは、地図を持たずに街をさまようようなものです。
その結果、
- 回答に10分かかる
- ハルシネーションが起きる
- 数字を捏造する
といった問題が生じます。
半分しか当たらないAIに、ビジネスの意思決定は任せられません。
3-2. 解決策の核:社内知識のGoogleマップ Genie Ontology
Databricksが出した答えは、
「質問される前に、バックグラウンドで社内知識を“地図(グラフ構造)”にしておく」
というアプローチでした。
具体的には、以下を紐づけます。
- 社内文書
- メール
- Jira
- 用語集
- 「誰が何に詳しいか」という専門家情報
これらを、GoogleのPageRankを応用した OntoRank アルゴリズムで整理し、
AIを最も信頼できる情報へ導きます。
その結果として、
- AIの正答率は 30ポイント以上向上
- 処理時間は 半分に短縮
されたと紹介されました。
従来のAI
|
1 2 3 4 |
ユーザーの質問 → 毎回ゼロから社内を探し回る → 遅い・間違う |
GenieのAI
|
1 2 3 4 |
ユーザーの質問 → 事前に構築した「Genie Ontology(知識の地図)」を参照 → 爆速・正確 |
3-3. 自社データを理解して自然言語で対話できるAI:Genie One
この知識の地図の上で動くのが、データに強いAI同僚 Genie One です。
SQLの知識がなくても、普段の言葉で
「先月いちばん売れた商品は?」
と聞けば、社内ルールや権限を守った上で、正確なデータとグラフを返してくれます。
デモでは、
「OKRのレビュー資料を作って」
という指示に対し、最新のライブデータから
- 異常値
- 予測値
- 地域別内訳
まで揃えた資料を、ボタン一つで自動生成していました。
3-4. 質問だけでなく「運用・作業」も自動化する
Genieは、単に質問に答えるだけではありません。
Genie Agents
たとえば、
- Salesforceから情報を取得
- Workdayに投入
- レポート送信
といった一連の自律業務をこなします。
Genie ZeroOps
データ運用の面倒を肩代わりするバックグラウンド型エージェントです。
例えば深夜2時にシステムが止まっても、
- 自動で原因を特定し
- 修正案を作成し
- 人間は朝にレビューするだけ
という運用が可能になります。
第4章:OpenAIトップが語る、AGIのその先
基調講演には、OpenAI 共同創業者兼 President の Greg Brockman 氏も登壇しました。
両社は前年に 1億ドル規模のパートナーシップを結んでおり、
Databricksのデータ基盤上で OpenAI の Codex などを わずか1分でセットアップできる環境を実現しています。
Brockman氏は、AGIについて次のように語りました。
「『AGIか否か』という二分法ではなく、AIの能力は連続的なスペクトラム(グラデーション)で捉えるべきだ。
本当に問うべきは、今どんな能力があり、人間にどう利益をもたらし、どう制御するかという人間中心の問いだ」
また、Databricksへの要望を尋ねられると、
「より速く、よりスケーラブルに、より信頼性高く」
と一言。
ここには、
モデル(頭脳)がどれだけ賢くなっても、それを活かすのは自社のデータ基盤である
という、1日目を通貫するメッセージが凝縮されていました。
第5章:現実の世界を動かす、先進企業の事例
5-1. PepsiCo:データと「対話」する文化への変革
従業員32万人、世界250か国で展開する PepsiCo は、過去6年で 60以上のデータレイクをDatabricksに統合しました。
これまでAIコンソールの構築に数ヶ月かかっていたところ、
整ったデータ基盤の上に Genie を載せたことで、ローンチ後わずか数週間で 3万件のクエリが発生。
「レポートを眺める文化」から
「データと対話して意思決定する文化」
へと現場が変わったといいます。
5-2. Mastercard:複数エージェントを繋ぐ強固な基盤
200か国以上の決済を支える Mastercard は、
80もの異なるAIサービスをひとつのプラットフォームに統合しました。
Lakebase を活用し、あるAIエージェントが生み出したインサイトを、別のアカウントが即座に利用できる 「共有コンテキスト」 を構築しています。
中小企業の資金繰りを支援する 「Virtual CFO」 のような新サービスを、
高度なガバナンスを保ったまま、わずか数週間で形にしたと紹介されました。
まとめ
1日目のメッセージは明確でした。
「賢いAI(頭脳)はもう手の中にある。
あとは、あなたの会社の地図(データ)を渡せるかどうかだ」
もし自社でAI活用を本格化させるなら、以下の観点で整理を進めるのがよさそうです。
1. AI戦略の4軸点検
自社のAI施策は、次の4点をクリアできているでしょうか。
- コンテキスト
- セキュリティ
- コスト
- 選択肢
2. データ運用の棚卸し
既存のシステム連携、たとえば CDC やミラーリングに、
無駄な保守コストがかかっていないかを見直す必要があります。
3. 「知識の地図」の準備
AIを活かすために、社内の
- 用語集
- データアクセス権
- ドキュメント
- 専門家情報
などをどう整理するか。
Unity Catalog 的な発想が重要になってきます。
企業の競争力の源泉は、AIモデルそのものではなく、
「自社にしかないデータ」をどう活かすかへと完全にシフトしつつあります。
Databricks Summit 2026 1日目のKeynoteは、その未来像をかなり強い言葉で提示していました。
お知らせ
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DAIS2026 Recap イベント
現地参加が難しかった方や、主要トピックスを短時間で振り返りたい方向けに、Recapイベントを開催します。
セッションの要点整理や、日本企業での実装観点も交えてご紹介予定です。
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